最高気温が25℃以上の夏日が続くと、ノミの成長期間が約2週間に短縮されます。夏は油断をするとノミが短期間で多数発生します。ノミは吸血しながら血液凝固を妨害するための唾液を分泌します。この宿主体内に分泌された唾液がワンちゃんネコちゃんのアレルギー性皮膚炎の原因となります。さらに、ノミはイヌ・ネコのサナダ虫を媒介します。ノミは本来の宿主であるワンちゃん・ネコちゃんばかりでなく、飼い主さんも吸血します。特に乳幼児を、ノミは好む傾向にあります。ノミはワンちゃん・ネコちゃんが屋外にいるときに寄生する機会が最も多くなります。ノミの卵の表面は滑りやすくなっているため、産卵後宿主の体表から滑り落ちて道路や床などの環境中に隠れて孵化を待ちます。室内飼育のワンちゃん・ネコちゃんにノミが寄生している場合は床やカーペットの隙間などに幼虫の孵化を待つ卵が潜んでいます。この卵から孵化した幼虫を飼い主さんが自分の服などに付着させて自宅から別の場所に持ち運ぶことがあります。このため、屋内飼育で他のワンちゃん・ネコちゃんと直接接触したことがない場合でもノミは寄生します。
マダニは春から秋まで、草木の葉の裏に隠れて動物やヒトを吸血する機会を待っています。草木の下をイヌやヒトが通過すると呼気のなかの炭酸ガスを感知して、落下します。マダニのイヌにおける好吸血部位は頭部、特に目の周囲と耳の内側で、ヒトでは股や腋下などです。マダニは吸血すると宿主の体表で小豆大に膨張します。マダニが吸血する際に分泌する唾液のため、ノミと同様に皮膚炎が惹起されます。さらに、マダニはバベシア病やライム病をワンちゃんに、そして、最近マスコミで報道された致命率10%以上の重症熱性血小板減少症候群(SFTS: Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)や日本紅斑熱などをヒトに伝播します。
マダニは都会の街路樹や植え込みでも吸血の機会を待っているので、都心でも気が抜けません。実際に、新宿御苑の周囲を散歩していたワンちゃんにマダニが吸血して小豆大に膨張した状態で当院を受診されたことがあります。また、ワンちゃんの散歩の際に付着したマダニが吸血部位を探して体表を這いずっている間に、ワンちゃんの帰宅と共に自宅に持ち込まれる可能性も否定できません。そして、ワンちゃん同様にヒトも散歩の際は緑豊かな郊外ばかりでなく、都心でもマダニに吸血されないように4月から12月まで注意しましょう。マダニを身近に寄せつけないようにするためには、ワンちゃんにおける寄生予防対策が重要です。
ノミ・マダニの寄生予防は必ず獣医師に相談しましょう。寄生予防効果が確実な薬剤は動物病院でしか入手できません。ホームセンターなどで市販されている安価な予防薬は外見だけ動物病院専売外用薬とよく似ていますが、肝心の薬の成分が異なるため、効果が全くありません。無害で薬剤としての効果もない、ただのおもちゃ用品はお金を捨てるだけで済みます。しかし、なかには予防効果が全くないだけでなく、ワンちゃん・ネコちゃんを薬物中毒させるものもありますので、ご注意ください。
ワンちゃん・ネコちゃんが夜眠れないほど、あるいは、引っかき傷が残るほど耳を痒がる上に、赤黒い耳垢が大量に出る場合はミミヒゼンダニが寄生している可能性があります。ミミヒゼンダニは種特異性が強いので、イヌ同士又はネコ同士の接触により季節を問わず伝播しますが、飼い主さんが吸血による健康被害を受けるようなことはありません。
ワンちゃんが夜眠れないほど全身を痒がり、フケが大量に認められる場合はセンコウヒゼンダニが寄生して犬疥癬を発症している可能性があります。季節を問わず多頭飼育の施設で飼育されるとすでに寄生しているイヌとの接触により容易に伝播します。このセンコウヒゼンダニが多数寄生している場合はワンちゃんばかりでなく、飼い主さんも吸血の被害を受けます。以上のノミ、マダニ、ミミヒゼンダニとセンコウヒゼンダニは個体から個体へ伝播するので、防除の対象となります。これに対し、にきびのような丘疹が特徴的な毛包虫症の原因となるニキビダニはすべてのイヌ・ネコの皮膚に常在していて宿主の免疫力が低下した時に、季節を問わず発症します。毛包虫症を発症したワンちゃん・ネコちゃんには駆虫剤を用いた治療が必要です。
ミミヒゼンダニ、センコウヒゼンダニとニキビダニによる皮膚炎は自然治癒することはありません。耳に爪の引っかき傷が残るほど痒がる、フケが大量に出て全身を痒がる、そしてニキビのようなできものが形成されて痒がる、これらのうち1つでも該当する場合は、獣医師の診察を受けましょう。